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政策「税・社会保障システムを、世帯単位から個人単位へ」

税・社会保障システムを、世帯単位から個人単位へ

2024.7.19
生協労連第578回中央執行委員会

1.はじめに

生協労連は、人権(個人の尊厳)を大切にし、「ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)とジェンダー平等社会の実現」をめざしています。この社会をつくるために、自己責任社会と決別し、性別役割分業から脱却し、一人ひとりが個人として自立できるために、「賃金と社会保障のセットで、ふつうにくらせる社会システム」をつくることを提起しています。

 

具体的には、性別、家族形態、雇用形態にかかわらず、すべての人が憲法25条で保障された健康で文化的な最低限度の生活を営める社会をめざしています。今のように男性(夫)が長時間働き、過度に賃金依存をして教育・子育て、住宅政策、社会保障すべてを賄うのではなく、国の社会保障政策として教育費の無償化、住宅補助費の拡充、最低保障年金の創設などを求めています。賃金は、最低賃金を全国一律1,500円、同一価値労働同一賃金の実現と、年間所定労働時間1,800時間、失業時の保障の拡充などを求めています。 

 

明治憲法下での「家制度」「家父長制」が廃止され、現憲法14条、24条においては、男女平等や婚姻に関しても法律において個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚することが規定されています。しかし、世界経済フォーラムが発表した2024年のジェンダーギャップ指数では、146か国中118位と、下位に低迷しています。経済分野で賃金や管理職比率での格差、政治分野での国会議員の男女比がジェンダーギャップの要因となっています。また、2022年から男女の賃金格差の公表が一部企業に義務化されました。結果は、男性を100として女性は全労働者との比較、非正規労働者との比較でも6割台と欧米と比べても賃金格差が大きいままです。

 

今、女性の低賃金、雇用間での格差、低年金を解決することが求められています。賃金是正の法規制が機能していないことも課題ですが、とりわけ税や社会保障のシステムが、世帯単位(収入、配偶者控除、扶養の範囲内、企業福利厚生としての扶養手当)で構成されてることが、問題となっています。103万円、130万円などの収入の檻(壁)が、配偶者(妻)、女性の賃金(大幅賃上げ、同一価値労働同一賃金)抑制、就労調整(時間短縮、欠勤)による経済的、社会的自立の阻害の要因となっています。

 

こうした税や社会保障のシステムを世帯単位から個人単位へ変え、真に女性が自立して生きていくために非課税限度額の抜本的引き上げと勤労者はすべて社会保険に加入し、第3号被保険制度を廃止することを提起します。また、社会保障の充実として最低保障年金制度の創設を求めていきます。

2.税や社会保障のあるべき姿と現状

 

(1)応能負担が大原則

日本国憲法、国際人権規約からも税や社会保障のあり方の大原則は「応能負担原則」です。社会福祉・社会保障制度は「所得の再分配」を基礎に成り立つ制度です。「所得の再分配」とは、個々人の所得格差に対し、低所得層に税や保険料を使って国民生活の水準を少しでも引き上げる社会的制度です。

 

(2)自己責任と応益負担へ変質

しかし、社会福祉・社会保障制度に関しての「所得の再分配」を否定する流れが、政府・財界から強力におしすすめられています。自助・共助・公助として、社会福祉や社会保障に「応益負担」が当り前のように言われるようになりました。「応益負担」とはサービスの利益に応じて負担もふやすという考え方です。

 

(3)税のあつめ方にも問題

「応能負担」を「応益負担」におきかえる政府・財界の政策は、社会福祉・社会保障だけにとどまりません。それは税の使い方だけでなく、税のあつめ方にまで広げています。政府・財界のすすめる「税と社会保障制度の一体的改革」は法人税や高額所得者の減税をすすめる一方で、消費税率のさらなる引き上げをねらっています。「消費税」は、税の基本である累進性とは真逆の逆進性の強い最悪の税制です。

 

(4)消費税の福祉目的税化のごまかし

政府は、2012年の消費税法改正で第1条に次の条文を追記しました。「消費税の収入については、地方交付税法(昭和二十五年法律第二百十一号)に定めるところによるほか、毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする。」。消費税の使途は社会保障などにあてる、使途を明確にしたとするところですが、そもそも消費税は一般財源ですべて社会保障に使われているものではありません。社会保障を充実させるには増税するしかないと迫り、憲法25条にある国の責務を果たさない方向へすすめようとするものです。政府の責任で税の使い方を改めて財源を確保し、社会保障を充実させるべきです。

 

3.世帯単位による税・社会保障システムの問題点と矛盾

 

(1)低すぎる課税最低限度額

日本の勤労者の課税最低限度額は、103万円です(基礎控除48万円+給与所得控除55万円)。物価の高騰や生活スタイルの変化があるにもかかわらず1995年以降引き上げられていません。衣食住にかかる生活費は、非課税という生計費非課税原則から見ても、諸外国と比較しても低い実態があります。また、税金を払いたくないという心理がはたらき103万円までに収入を調整する現状もあります。

 

(2)配偶者(特別)控除は矛盾が多い

共働き世帯が増加している中で、片働き世帯(専業主婦)を優遇するなど、個々人の働くことへの選択を歪めることは適当ではないとの指摘があります。また、「パート世帯」においては、配偶者(妻)が、基礎控除の適用を受けるとともに納税者本人(夫)も配偶者控除の適用を受けている(いわゆる「二重の控除」がおこなわれている)ため、「片働き世帯」や「共働き世帯」よりも控除額の合計額が多く、アンバランスが生じているとの指摘もあります。

(3)企業の扶養(配偶者)手当

各企業の任意の制度として設けられている扶養(配偶者)手当が、配偶者(妻)の収入、103万円、130万円などを法的には定められていない基準を設けて各企業の独自の支給要件としています。このこともパートの低賃金固定化、就労調整に影響を及ぼしています。

 

(4)国民年金第3号被保険者(いわゆるサラリーマンの妻)制度の矛盾

第3号制度は、年金保険料を負担しなくても老齢基礎年金の給付(満額給付には40年間必要)があります。 配偶者の年金は配偶者自身の負担に基づくべきなどの批判があります。社会保険の適用拡大(週労働時間20時間、月額賃金8.8万円以上などの要件)がすすみ、最低賃金の引き上げもすすみ、106万円の壁といわれるパートの低賃金固定化や就労調整の要因となっています。第3号制度によって無年金者は減少しましたが、40年間加入し、満額給付でも年額795,000円(2023年度)と年金支給をむかえた女性の低年金も社会問題化しています。

※第1号被保険者は、自営業者、農業や漁業の従事者などや学生で、国民年金の保険料を自分で納付。

第2号被保険者は、会社員や公務員など職場の厚生年金や共済組合に加入している人たち、保険料は事業主と折半で給料から天引きされて納付。

第3号被保険者は、会社員や公務員などに扶養されている配偶者(専業主婦・主夫)で、保険料は配偶者が加入している厚生年金や共済組合の制度全体で負担する仕組みのため、個人的な納付はない。

※年金制度に連動して第1号は、国民健康保険(国保)、第2号、第3号は、被用者保険(健保組合、協会けんぽ、共済組合)にそれぞれ加入し、保険料を納付。

 

4.個人の自立とジェンダー平等実現のためにめざすべき税・社会保障システム

 

(1)生計費は非課税に 基礎控除を大幅引き上げます

 全労連が各地でおこなった生計費試算調査では、単身者(25歳)の衣食住にかかわる基礎的消費部分は月額12~13万円(年約144万円)という結果です。一方で公務員賃金引き上げなどの指標とされる標準生計費では、月額約10万円と低く示されています。私たちがめざすふつうにくらすためには、栄養のバランスのとれた食事、快適な住環境など一定の生活実感に基づく生計費試算  調査の結果を採用して非課税限度額を144万円とし、基礎控除48万円を89万円に引き上げます。自営業やフリーランスなどとの公平性からも基礎控除の引き上げをおこないます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(2)税控除は世帯単位から個人単位へ 配偶者(特別)控除は廃止します

単身者、シングルマザー、婚姻にとらわれない家族のありかたが多様化しています。世帯(婚姻関係)でしか認められていない不公平な配偶者控除は廃止します。子や親の扶養控除についてはは、現行のままとします。

 

(3)すべての勤労者は社会保険(健康保険・厚生年金)に加入します 第3号被保険者制度は廃止します

矛盾の多い国民年金第3号被保険者制度を廃止します。18歳以上の国民は、国民年金第1号・国民健康保険もしくは第2号・厚生年金に加入します。勤労者(学生除く)は所得、労働時間に関係なく社会保険に加入します。これによって文字通り国民皆保険、国民皆年金が実現します。制度として等級の下限と上限を拡大させます。厚生年金保険料標準報酬の等級についても下限を拡大させます。

<埼玉県:現在>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

給与所得者、すべて社会保険に加入し、高所得者に応能負担を取り入れた場合

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在の協会けんぽ、厚生年金の保険料(税)率は、標準報酬に対してそれぞれの料率で負担しています。埼玉県の協会けんぽでは、11.38%(介護保険含む)、厚生年金は、全国一律18.30%です。

個人単位化によって勤労者すべてが加入するとした場合の保険料は、現行制度で試算すると上記の表になります。所得税のように所得に応じた累進性の料(税)率への変更によって高所得者の応能負担と低所得者へ負担軽減が求められます。

 

◆税と社会保障個人単位化によってこう変わります

 

〇単身者(最賃1,500円、国保・国民年金から社会保険2号加入)

〇夫婦(夫・会社員、妻・短時間パート・こども2人(小学生・中学生)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(4)月額8万円の最低保障年金の創設

全日本年金者組合(年金者組合)が提起する国庫負担と事業主負担を財源とする65歳以上のすべての人に保障する月額8万円の最低保障年金制度を創設します。

 

(5)国民年金・国民健康保険との格差問題

国民年金と厚生年金、国民健康保険(国保)と健康保険(健保組合、協会けんぽなど)の加入者負担には大きな格差があります。

 

*国民健康保険料(税):さいたま市の2023年度では、夫婦(40歳代)・子ども(小学生1・未就学児1)の4人世帯、所得300万円(妻の年収100万円)※2割軽減世帯で年額261,300円(月額21,775円)。

*協会けんぽ保険料(税):埼玉県の2024年度では、料率11.38%(介護分含む)、標準報酬月学17万円だと月額19,346円、労使折半で9,673円。

*国民年金保険料は、月額16,980円。

*厚生年金保険料は、年収200万円(月額17万円)で15,555円。

 

5.個人単位化による税や社会保険料の負担増や財源の課題

 

(1)保険料負担増に対して個人の収入増と社会保障への信頼回復をすすめます

・早急に最低賃金を全国一律制として1,500円に引き上げます。

・健保被保険者および被扶養家族の自己負担3割を1割に戻します。(1984年1割→1997年2割→2003年3割)

・こども(18歳まで)の医療費は、無料にします。

   

(2)事業主負担増は国の義務で支援をおこないます

・中小企業の賃上げ、社会保険加入者増による保険料負担増に対しては国の政策として社会保険料減免措置や助成をおこないます。 

 

(3)税収の減少や医療年金の充実のための財源の確保をすすめます

・所得税最高税率を従来の区分に戻します(現行7段階45%、1984年19段階75%)。

・引き下げられてきた法人税税率(1990年37.5%→2023年23.2%)を戻します。大企業や輸出大企業を優遇する「研究開発減税」や消費税を還付する「輸出戻し税」をなくします。

・いわゆる1億円の壁といわれる、所得が1億円を超えると課税負担が減少する矛盾を解決します。具体的には、課税率の低い株式譲渡益など不労所得も分離課税から所得課税に合算し、公平かつ応能負担とします。

(4)国民年金の充実と負担の重すぎる国民健康保険の改善を

・国民年金と国民健康保険に対する国庫負担率を大幅に引き上げるとともに、応益割(均等割・平等割)は縮小・廃止させます。将来的には厚生年金および社会保険(健康保険)との統合を検討します。

 

(5)世帯単位から個人単位によって影響を受ける公共サービス

・世帯単位の収入による公共サービス提供(就学援助、保育料など)は、個人単位の収入の合算などによって対応します。

 

6.おわりに

 

個人の尊厳が尊重され、自立して生きていける社会の実現には、古い家族観や性別役割分業(夫が稼ぎ、妻は家事・育児・介護)の固定概念を変えなければなりません。また、民法730条(直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない。)の改正についても検討課題です。いま政府は、5年に1度の年金改革の議論をすすめ、短時間労働者の加入拡大のために企業規模による制限を撤廃することなど含めた方向性が2024年12月には示されます。この機に当事者(納税者、社会保険加入者)として個人単位化への制度変更と年金・医療など社会保障の充実を要求し、だれもが自分らしく生きることができる社会をめざしていきます。

 

以上

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